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山旅について

旅を終えたとき、そこには
少し違う自分がいる。
この洋館は、かつて北埔国民学校の教師・姜源秀(ジャン・ユエンシウ)先生の住まいでした 。建築は、姜阿新洋楼を手がけた建築家・彭玉理(ペン・ユウリ)によるものです。外壁は洗い出し仕上げの繊細な職人技でつくられ、すっきりとしながらもあたたかみのある佇まいを見せています。線の美しさ、間取りの上品さが印象的です。
玄関前の車寄せや、2階のテラスには、1980年代の建築の趣が今もそっと残されており、静かでゆるやかな時間が流れています。


北埔は、歩くことでその魅力がじんわりと伝わってくる山あいの町です。慈天宮の前の広場を通り、北埔街をゆっくり歩き、埔尾街へと曲がれば、ほどなくして北埔小学校が見えてきます。その校舎のそばには、1920年代に建てられた旧教員宿舎が静かに佇み、道をはさんだ向かい側には、歴史を感じさせる洋館がたたずんでいます。
北埔|或者山旅

今「或者山旅」は、この歴史ある洋館に新たな命を吹き込み、旅人のためのあたたかな宿となりました。扉を開けると、大きな窓から陽の光がゆっくりと差し込み、空間はやさしく、静けさに包まれます。朝には、遠くから鶏の鳴き声が聞こえ、路地には軽やかな足音が響きます。昼下がりには、本を読みながら、そっとお茶を片手に、山の静かな時間を味わって。夜には、風にのって花の香りが届き、深く息を吸えば、身体の奥までほっとほどけていくようです。


北埔で四、五年級(1970〜80年代)を過ごした多くの人たちは、今でも姜先生の姿をはっきりと覚えています。城門街の奥に住む姜さんは、先生が校庭の端で竹の棒と口笛で生徒たちに落ち葉掃きを指導していた光景を懐かしく語ります。南興街で擂茶(レイチャー)店を営む武さんは、子どものころ、教師宿舎の並ぶ道を散歩した思い出を語ります。そよ風の吹く夜には、姜先生の家の塀の外から、いつもほのかな花の香りが漂ってきて、それが彼女の記憶の中でいちばん優しい香りとして残っているのだそうです。
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